乖離率が測るもの:平均から離れた距離
乖離率は、今の価格が移動平均からどれだけ離れているかを比率で表した指標です。移動平均が最近の一定期間に人々が売買した価格のおおよその中心だとすれば、乖離率は現在値がその中心から上または下にどれだけ外れたかを示します。韓国では証券会社のチャートソフトに昔から標準の指標として入っていて株式の投資家にはなじみがあり、日本でも移動平均乖離率として広く知られています。一方で海外のチャートでは名前が違ったり標準の一覧になかったりして、自分で計算するか似た指標を探して使うことも多いです。乖離率が役に立つのは、価格チャートだけを見るときより「どれだけ」を数字で比べられるからです。同じ銘柄でも数か月前の急騰と今日の急騰がそれぞれ平均から何%離れていたかを並べられ、価格帯がまったく違う銘柄どうしも比率なら比べられます。ただし乖離率は距離を測るだけで、その距離がどちらの向きに、いつ縮まるかは教えてくれません。この記事はこの点を中心に置いて、読み方と落とし穴を一緒に見ます。
定義と計算
乖離率は、終値を同じ時点の移動平均で割り、100を掛けて求めます。終値が移動平均と同じなら100、平均より5%上なら105、5%下なら95です。同じ内容を100を引いた値、つまり(終値 − 移動平均)÷ 移動平均 × 100で示し、0を中心に上下の%で表すチャートも多く、日本ではこちらの表し方が一般的です。二つの表示は基準線が違うだけで中身は同じなので、数字を見るときは基準が100か0かをまず確かめます。よくある初期値は20本の単純移動平均で、韓国の証券会社のチャートでは20日と60日の乖離率を並べて表示することが多く、短いものでは5日や10日も使われます。単純移動平均はトレーディングビューの標準の移動平均と同じ方式で、直近n本の終値を足してnで割った値です。指数移動平均(EMA)に変えると平均が最近の価格を速く追うので、同じ期間でも乖離率の振れ幅は小さく出ます。
- 比率表示 = 終値 ÷ n本の移動平均 × 100
- 0基準の表示 =(終値 − 移動平均)÷ 移動平均 × 100
- よくある初期値:20本の単純移動平均(韓国では20日と60日の併用が多い)
- 最初のn−1本は平均がないため値が出ない
平均回帰という考え方
乖離率を使う背景には、平均回帰という考え方があります。価格が平均から大きく外れると、やがて平均の方へ戻る傾向があるという仮定です。急に上がった後には利益を確定する売りが出て、急に下がった後には安くなったと見る買いが入って差が縮まる、という説明がよく添えられます。ここで注意したいのは、差が縮まる道が二つあることです。価格が平均の方へ戻ることもありますが、価格はその場にとどまり、移動平均が時間とともに価格の方へ追いついてくることもあります。どちらの場合も乖離率は100の方へ戻りますが、価格チャートの姿はまったく違います。前者は押し戻しで、後者は価格が新しい水準に落ち着いたということです。そのため「乖離率が100に戻った」という事実だけでは、価格が下がったとも上がったとも言えません。平均回帰は乖離率という数字についてはほぼいつも成り立ちますが、価格については市場と時期によって当たることも大きく外れることもある仮定です。
読み方:基準線は銘柄と時期ごとに違う
乖離率には、RSIの70・30のように広く合意された基準線がありません。値動きの小さい大型株では20日乖離率が105を超えるだけでも珍しいことがありますが、暗号資産や小型株では120を超えることも珍しくありません。そのため絶対的な数字より、その銘柄の過去の分布と比べる方が適しています。まずここ1〜2年に乖離率が主にどの範囲で動いていたか、今の値がその範囲の端の近くかを見ます。次に乖離率の向きを見ます。値が大きくなっている途中なら価格が平均より速く離れている途中で、値は高いが小さくなっている途中なら価格が止まったか平均が追いついている途中です。最後に短い乖離率と長い乖離率を並べます。20日乖離率は100近くなのに60日乖離率が高ければ、ここ数週間は休んでいても数か月の単位ではまだ平均のはるか上にいるということです。同じチャートにボリンジャーバンドを表示すると、似た距離を標準偏差の単位で見られるので比較に役立ちます(ボリンジャーバンドの記事)。
トレンド相場での落とし穴
乖離率がいちばん大きく外れるのは、強いトレンドが続くときです。上昇トレンドが長引くと価格は移動平均の上にとどまり続け、乖離率も100より上から下りてこないまま高い値を長く保ちます。このとき過去の範囲の端に届いたという理由ですぐ戻ると読むと、乖離率がさらに高くなったり高いままとどまったりする間、外れ続けることになります。下落トレンドでも同じで、乖離率が低い値に長く張り付くことがあり、大きく下がったという事実は底を意味しません。トレンド相場で乖離率が100の方へ戻る場面も、たいていは価格の大きな押し戻しではなく、短い休みと平均の追いつきで生まれます。そのため乖離率を読む前に、価格がトレンド中かレンジかを価格そのもので先に判断するのが順序です。高値と安値が切り上がり続けているか、移動平均の傾きがはっきりしているかを見て、トレンドがはっきりしているなら乖離率の端の値は過熱の判定より、トレンドの強さを要約した数字として受け取る方が危うさが少なくなります(トレンドの記事)。
よくある思い違い
乖離率を使い始めたときによく起きる思い違いがいくつかあります。いちばん多いのは、一つの数字に意味を固定することです。どこかで「乖離率110なら過熱」という基準を見たとしても、その数字は特定の銘柄と期間から出たものなので、ほかの銘柄に移すと合いません。二つ目は、乖離率と価格の水準を取り違えることです。乖離率が100より下というのは平均より下という意味であって安いという意味ではなく、平均そのものが下がり続けている途中かもしれません。三つ目は、移動平均の長さを変えながらよく合う基準を探すことです。過去のチャートに合わせて選んだ期間と基準線は、その過去にだけよく合いがちです。四つ目は、レンジで通じた読み方をそのままトレンド相場に持ち込むことです。範囲の中で上下しているときは端から戻る場面が繰り返されて乖離率がよく当たるように見えますが、範囲が破れた瞬間にその読み方がいちばん大きく外れます。以下は、乖離率を見るときに一緒に思い出したい点です。
- 決まった過熱の基準線はない。銘柄ごとの過去の範囲と比べる
- 100より下は「平均より下」にすぎず「安い」ではない
- 差は価格が戻っても、平均が追いついても縮まる
- 過去に合わせて選んだ期間・基準線は過去にだけ合いがち
移動平均の長さと種類が変えるもの
乖離率の性格は、分母である移動平均がほとんど決めます。期間が短いと平均が価格にぴったり付いていき、乖離率は100の近くでしばしば上下します。期間が長いと平均がゆっくり動き、乖離率は一方に大きく開いたまま長くとどまります。5日乖離率が数日の急騰・急落を示すとすれば、60日や120日乖離率は数か月にわたる位置を示すことになります。平均の種類も影響します。単純移動平均は期間内のすべての終値に同じ重みを与えるので、期間の先頭にあった大きな足が抜ける日に平均が急に動き、価格が変わらないのに乖離率が変わることがあります。指数移動平均はこうした段差が少ないものの、最近の価格を速く追うので同じ期間でも乖離率は小さく出ます。そのため二つのツールの乖離率の数字が違うなら、まず平均の種類と期間、足の長さが同じかを確かめます。移動平均そのものの選び方や、ゴールデンクロスのような交差の読み方は移動平均線の記事で扱います。
暗号資産と株式で違って見える点
乖離率は終値と平均の比率なので、市場の変動の大きさがそのまま数字の幅になります。暗号資産は1日の値動きが大きい傾向があるため、同じ20日乖離率でも株式よりはるかに広い範囲を行き来し、株式なら極端に見える値が暗号資産ではふつうの日であることもあります。韓国株は通常取引が終わると翌日まで取引が止まるので、サムスン電子やSKハイニックスが決算や業界のニュースで窓を開けると、乖離率が1日で階段のように跳ねます。韓国株には1日±30%の値幅制限があり、足1本で開きうる距離に上限がありますが、暗号資産にはありません。米国の指数は多くの銘柄をまとめた値なので個別の大型テック株より乖離率の幅が狭い傾向があり、大型テック株は決算発表の前後に幅が大きくなりがちです。また株式の日足20本は取引日で約1か月ですが、週末も休まず取引される暗号資産の日足20本は暦で20日です。同じ「20日乖離率」でも含まれる時間が違うので、二つの市場の数字をそのまま比べません。
リアルタイムのチャートで見るとき
リアルタイムのチャートでいちばん右の足は、まだ閉じていない足です。この足の終値の位置には現在値が入り、移動平均にもその現在値が一つ分入るので、乖離率の分子と分母が一緒に動きます。そのため取引の途中で乖離率が高く跳ね上がり、足が閉じたときにはずっと低く終わることがよくあります。1分足や5分足のような短い足では、こうした変化が数秒単位で起き、約定が数件集まるだけでも値が大きく跳ねます。過去の範囲と比べるときは、閉じた足どうしで比べる必要があります。過去の値はすべて閉じた足の終値で計算されたものなので、進行中の足の値とそのまま並べると、今が実際より極端に見えることがあります。また足の長さを変えると移動平均が含む時間も変わるため、1時間足の20本乖離率と日足の20本乖離率は、互いに違う問いへの答えです。今見ている値が確定した値かどうかをまず確かめる習慣が、混乱を減らします。
実践の確認手順
乖離率の数字を読む前に以下の順で確かめると、よくある思い違いのかなりの部分を避けられます。このサイトのチャートツールのように複数の指標を一緒に表示する画面でも、同じ順序が通じます。一つでも当てはまれば、乖離率から読んだ意味を一段下げて受け取ります。順序が大切です。価格とトレンドを先に見て、乖離率は最後に距離を確かめる用途で使います。とくにトレンドがはっきりした区間では、乖離率が高いという事実より、その高い状態がどれだけ続いたか、押し戻しのときにどこまで下がったかを一緒に見る方が流れを理解する助けになります。多くの銘柄を一つの表に並べるスキャナーで乖離率の大きい銘柄がいくつも見える日も、たいていは市場全体が一方に動いた結果で、銘柄の数だけの根拠にはなりません。乖離率は価格が平均からどれだけ離れているかを要約するだけで、その距離がどう縮まるかは価格と売買が決めます。
- 基準が100か0か、平均の種類と期間は何か
- 足の長さ:20本が何分・何時間・何日にあたるか
- 最後の足が閉じた足か、進行中の足か
- 価格がトレンド中かレンジか(乖離率より価格を先に)
- 今の値が、その銘柄のここ1〜2年の範囲のどのあたりか
- 窓や急騰・急落の足1本が値を押し上げたのではないか
限界と注意事項
乖離率は価格と移動平均という二つの数字だけで作った単純な指標なので、計算が透明で理解しやすい代わりに、含まれる情報もそのぶん限られています。出来高や市場全体の流れ、ニュースはまったく入っておらず、平均から離れた理由が一時的な過熱なのか、決算や業界の状況のような実質的な変化なのかも区別できません。同じ乖離率の値が、あるときは押し戻しの直前で、あるときは長いトレンドの途中です。そのためこの記事は、乖離率をどの値で売買するかを決める基準として示さず、特定の基準線がこれからも通じるとは言いません。過去のチャートでぴったり当たって見える場面は、たいてい結果を知ったうえで選んだ場面だという点も覚えておく価値があります。この記事は指標の意味と読み方を説明する教育用の資料であり、投資の助言ではありません。売買の判断と結果は各自にあります。
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